身体にやさしいがん治療「光免疫療法」が未来を変える

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日本でも年間約40万人が命を落とすと言われる「がん」という病。その治療法はさまざまですが、今、がん治療に革命をもたらすと期待される新しい治療法が世界で注目されています。

アメリカ国立衛生研究所(NIH)主任研究員、小林久隆先生が開発した「光免疫療法」。光のエネルギーによってがん細胞を破壊しながら、同時にがんに対する免疫を活性化させる。患者さんの身体へのダメージが少なく、副作用がほとんど無い。そんな夢のようながん治療法が、世界に先駆けて日本で始まっています。

患者さんにやさしい治療法を届けたい

──光を当ててがんを治す―。先生が開発された「光免疫療法」は、長年にわたる研究の末に作り上げた治療法だと伺います。研究を始めたきっかけをおしえてください。

もう30年以上も前の話ですが、大学病院で放射線科医として医師としての道を歩み始めた頃のことです。

最初に担当したのが、末期のがん患者さんばかりでした。手術や化学療法などを行ったものの効果が得られず、手の施しようがない。最後に残された選択肢が放射線治療でしたが、そこで受け持った患者さんが4人続けて亡くなってしまったんです。

新米医師だった自分にとっては、かなりショックな経験でした。普通だったら、病院で治療を受けたら、病気やケガが治って喜んで退院していきますよね。患者さんが元気になって「ありがとう」と言われるのが、医師のやりがいのはずです。

でも当時の放射線治療は、治療をするたびに患者さんをどんどん弱らせてしまう。強く照射することで正常な細胞に与えるダメージが大きく、免疫機能が低下して体力も落ちていってしまう。日に日に弱っていく患者さんを目の当たりにして、「本当にこの治療法は正解なのか?」とだんだん疑問を感じるようになりました。

──治療しているのに良くならない。それは医師にとっても患者さんにとっても辛いことですね。

がんの治療法は、当時からいわゆる「三大治療法(※)」が主流でした。しかし、それらはいずれもがんに対して決定的な治療ではありません。
※がんの三大治療法…「手術療法」「化学療法」「放射線療法」

さまざまな副作用や後遺症が患者さんを苦しめ、治療によってがんが寛解した(症状が治まって落ち着いた状態になった)としても、身体が元の状態に戻るということはまずありません。

どうにかして、がんに効く治療法を作りたい。しかも正常な細胞にダメージを与えずに、がん細胞だけを狙って破壊する。そんな患者さんにやさしい治療法を編み出したい。そういう思いが高まり、研究の道を歩み始めました。

──そこから約30年かけて開発したのが、「光免疫療法」。それは、これまでのがん治療法とはまったく異なる治療法だと聞きますが、どのような治療法なのでしょうか?

目指すべき治療法は、「がん細胞だけを選択的に認識して、そこだけに狙いを絞って攻撃する」というものでした。そのために追究したのが、「がん細胞を光らせる」「イメージング(画像化)する」というアイディアです。

生きているがん細胞だけを選んで光らせ、治療でがん細胞が死んだら光らない。それができるような薬剤の開発を目指しました。

さらに重要になるのが、どうやってがん細胞を壊すかということです。

がんを倒す武器をがん細胞まで届けて攻撃しなくてはなりませんが、そこで投与するのが危険な薬であってはなりません。毒性の強いものだと、必ず副作用を起こして患者さんの身体を傷つけてしまうからです。いろいろ研究を重ねた結果、「特別な薬剤とレーザー光を使ってがん細胞を狙い撃ちする」という治療法にたどり着きました。

▲ 光免疫療法のイメージ。紫色のがん細胞と結びついた抗体薬に近赤外光を当てて破壊する。

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