今こそ、子どもの論理力を鍛えよう!【現代文のカリスマ・出口汪】

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2020年度から、本格的に大学入試や学校の授業が変わりました。国語に限らず、全ての教科で読解力・記述力がこれまで以上に問われる時代の到来です。子どもたちが文章を正確に読み解き、論理的に考え・記述する力はどうすれば身につくのでしょうか?あの元祖「現代文のカリスマ」出口汪先生にお話を伺いました。

論理の力は“ことばの力”!
まずは漢字の「読み」を先取りさせましょう。

漢字は「訓読み」学習から。最初は書けなくてもOK!

「子どもの論理力を鍛えたい!」と思ったら、まずは学年問わず「漢字の訓読み」(漢字の意味がわかる読み方。例:「広」⇒音読み「コウ」・訓読み「ひろ—い」)をどんどん覚えさせましょう。これは、知っている漢字が増えれば、読める本の幅が圧倒的に広がるからです。
まだお子さんが小学校入学前でも大丈夫。国の方針としては「漢字は小学校に入ってから」が原則ですが、これは「幼児期は手先が自由に動かないので、細かい漢字を書くことができない」という理由から。「読み」を先行する分には全く問題ありません。むしろ、幼稚園・保育園から小学校低・中学年くらいの「お母さん・お父さんに褒めてほしい時期」にどんどん漢字を読ませ、「こんな難しい字も読めるの!?すごいね!」とたくさん認めてあげることで、柔らかい脳に言葉を入れてしまいましょう。
漢字が読めるということは、「意味がわかる」ということ。「読み聞かせ」から「自立読み」への移行もスムーズになりますので、例えば、下のお子さんに手がかかって本を読んであげられない…というお母さんも、楽になっていくと思います。

小学四年生の範囲までは、どんどん先取りを

漢字は「言葉のまとまり(語彙)」なので、語彙が増えれば文節の理解も進みますし、主語はこれ、述語はこれ、という日本語の文のルールも自然にわかるようになります。四年生くらいまでの漢字は、「形のあるもの・目に見えるもの・身近なものや絵などで表しやすいこと」が中心ですので、まずはそこまでを目標にしましょう。
五年生以降になると、「愛」や「罪」など「何となく説明しにくい」言葉も登場しますが、「その言葉からイメージできるもの」を親子でたくさん出し合うなど、工夫次第で早くからでも習得できます。それに、こうした「自分以外との関係の中から生まれる言葉」は、自分の気持ちの理解を促し、同時に、他の人やモノへの想像力も育みます。
そもそも、語彙の学習と、その次に大切な読書という経験は、車の両輪です。本の世界はまさに「知らない誰かのこと」を「言葉だけで理解」するわけですから、語彙をたくさん持っていて、言葉の持つさまざまな意味を想像しながら読まないと、物語を深く理解できませんよね。だから読書を通してお子さんの論理力を育てようと思ったら、大前提として漢字を強化していくプロセスが欠かせないんですね。

おとぎ話から文学作品へ。
「想像力」を育む物語経験を大切に。

現実には「ない」からこそ、読書が脳を育てる

次に大切なのが、現実の世界には「ない」ものを想像する力。それを育めるのが読書です。
小学校低学年くらいまでに、まずはおとぎ話や神話、世界各地の昔話をたっぷりと。中・高学年になってきたら、徐々に簡単な文学作品に触れさせてあげるのが理想ですね。
物語は、「言葉によってイメージできる力」を育てます。桃から人が産まれるなんて、現実世界ではあり得ません。おとぎの国はどこにも存在しないし、わたしたちが王子様やお姫様になることも、現実世界ではほぼ叶わない。ところが、物語では現実にはあり得ないことが何でも起こり得るし、また言葉の力によってさまざまな疑似体験も行えるのです。
こうして獲得した言葉によるイメージ喚起力は、AIと共に歩む子どもたちが社会で活躍するために欠かせない力です。これからは、現実の延長線上にあるものはみんなAIがやってくれますから。
もう一つ付け加えておくと、漫画やアニメ、それらのノベライズも悪いとは言いません。しかし、映像として完成されたイメージをただ受け取るだけでは、ほとんど脳は育ちません。また、その方が楽なので、子どもたちが好む傾向にあることにも注意が必要です。

文学作品は、自分の知らない世界を見せてくれる

良質な文学作品に触れることの良さもそこにあります。
文学作品と言えば、基本的に明治時代~戦後までの近現代に書かれた作品が多いのですが、あの頃は、いつでも戦争があったんですよね。明治維新から始まって、十年ごとに日本中が戦争に巻き込まれていた時代です。家族の誰かが戦争に行って人を殺し殺され…つまり、死をリアルに捉えることができました。同様に、このコロナ禍で伝染病というのが多少、身近にはなったかもしれませんが、当時はもっと病が身近で、いつ自分や周囲の誰かが病気で死んでしまうかもわからない。こういった中で作家たちは作品を残しました。
一方、今の子どもたちはそういう時代は知らないし、生きたことがない。だから、「活字を通して」自分と違う価値観、自分と違う世界をありありと思い浮かべる、という経験が必要だし、それをするための道具として語彙の力、漢字の力が必要なんです。それがないと、結局読書をしても、それが脳の発達や学力に結びついていかないということなんですね。

不特定多数に向かって、誰もが発信する時代。
必要なのは、「筋を通す力」

「論理」とは、線のように一本通った筋道のこと

そもそも「論理」とは「筋道を立てて考え、伝える」、いわゆる「日常の言葉の使い方」のことです。
たとえば、家族のように毎日顔を合わせる人であっても、何も言わずに全てわかり合えるかといったら、必ずしもそうではないですよね。だから自分の今思っていることをより的確に表す言葉(語彙)が必要だし、同じことを伝えるのでも、どういう言い回しをしたらコミュニケーションがうまく取れるのか、相手のことをいろいろ想像して、ちゃんと筋が通るように説明できなければなりません。
そして、先ほど読書に関して「活字を通して」想像力を鍛える、というお話をさせていただきましたが、活字というのはもう究極の「他人」です。目の前に相手がいれば、まだお互いに何かを察することができるかもしれないけど、そもそも書き手にとっては読み手が誰かもわからない。読み手も、書き手が何を言いたいのかは、書かれた言葉を手掛かりにするしかない。だから、必ず「筋道」が必要です。

「活字」があふれる現代社会において、論理力は不可欠

私たちの子どもの頃と違って、今はブログやSNS、YouTubeなどを使って、誰もが気軽に、しかも相手が誰かもわからない大勢の人間に、一瞬で、さまざまな形の情報発信ができる時代です。そして同時に、私たちは毎日、それが確かなのか・不確かなのかもわからない大量の情報を受け取りながら生きています。
その中で、やはり一番多く触れるのは「活字」による情報でしょう。子どもたちの教科書、参考書、本、あるいは試験問題…。大事な情報は今もって全て活字です。つまり、一番大切な情報を受け取れるかどうかは、全て活字を論理的に読み解けるかどうか、にかかっているのです。

保護者も「新しい教育」で思考のアップデートを!

子どもたちの未来には、今以上に完全にグローバル化された社会が待っています。どんな人とも意思疎通がしっかりできなければ社会で活躍できない。そこで、「論理」という武器は絶対に必要です。そして、その「論理」をどのような教育によって身につけさせれば良いのか。これはまだ学校現場も手探りの部分が多いかと思います。
したがって、まずは保護者の皆さん自身が、常に新しい教育に触れ、ご自身の考え方やお子さんとの接し方を日々アップデートされるのが良いかと思います。本誌『キッズジャーナル』はもちろん、僕の公式YouTube「出口汪の学びチャンネル」や、ご家庭向けテキスト『はじめての論理国語』(水王舎)などを活用し、まずは保護者の皆さんが「論理とは何か」を学んでみてください。そして、親子で一緒に、“物事を深く分析して多面的に捉え、最適な解決策を導き出す”生きた思考力を身につけていただければ幸いです。

2021年6月発行 キッズジャーナルvol.12 より

PROFILE
出口 汪(現代文のカリスマ・予備校講師)
関西学院大学大学院文学研究科博士課程単位取得後退学。広島女学院大学客員教授。日本語に関する書籍や、論理力を育成・強化するための教材を多数手がける出版社「水王舎」代表取締役。大学在学中から現代文講師として教壇に立ち、入試問題をセンスや感覚でなく「論理」をもって解読する手法に先鞭をつけ、受験生から絶大な支持を得る。論理力を鍛える画期的なプログラム「論理エンジン」は、全国の学校・塾で採用されている。著書多数。

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