誰かに喜んでもらうことは、自分にとっても嬉しいこと。

─先生は大学教授として、若い世代への指導にも熱心に取り組み、講演も多くされています。「教える」ということについては、ご両親の影響もあったそうですね。

私の両親は、愛知県岡崎市の出身で、ともに教育者でした。父は、夜学で苦労して勉強して大学教授にまでなった人。母は、小学校の教師でした。子どもの頃から、二人が家でよく教育論を交わしているのを耳にしていたので、「人に教えるとは、どういうことだろう?」と、自然に興味を持つようになりました。また、父は経営学に関する本を出していたので、そういう環境が、自分が大人になってから書籍をまとめたり講演したりするのに役立ったのかもしれません。

父も母も、東京に出てきてからはいろいろ苦労したようですが、「努力して、汗水流して働く。その結果として報酬をいただき、生活を営む」、そんな人間としてのあるべき姿を見せてくれた人たちでした。「なぜ働くのか」とか「何のために生きるのか」とか、現代では、そういうことを子どもに教える場面が減っているのかもしれません。昔の親たちは、生きることの価値や尊さを、生き方そのもので教えていたように思います。

─子ども時代の経験が、今につながっている。そんなエピソードはありますか?

あの頃、小学校の先生である母のもとには、よく教え子たちが遊びに来ていました。昔はそういうのが珍しくなかったんです。するとみんな、「先生の子どもだ!」となって、ちやほやしてくれて。そこで私はよく、自分が大好きだった天文の話をしていました。両親に買ってもらった天体望遠鏡を手に、みんなに星や宇宙の魅力を語ったり、持っている知識や雑学を伝えたり。すると、みんな「へえ~」とか言いながら、喜んでくれるわけです。それがいつの間にか、自分の能力の一つになっていった気がします。大学生になる頃には、まとめノートをきれいに作ってみんなに配るとか、人に何かプレゼンテーションをするとか、そういうのが得意になっていました。

当時の経験からでしょうか。「誰かに喜んでもらうことは、自分にとっても嬉しいこと」、そう思うようになりました。自分が勉強して得た知識や、新しく発見した何か良いことを、人に教えてあげる。そうすると、相手は喜んでくれます。その喜びが、そのまま自分の喜びになるんですね。これはとても価値のあることで、まさしく“プライスレス”です。「人に尽くす」という医師としての原点にもつながってくると思います。

何かに熱中することが、大きな力となる。

─子どもたちに、メッセージをお願いします。

若い頃は、「とてつもなく何かに熱中する」経験をすることが大事です。何かに熱中している時は、それが何であれ、ものすごく脳が活性化しているんです。その経験が、後々の人生において大きな力になります。

先ほども触れましたが、私は子どもの頃から天文がたまらなく大好きで、中学・高校と6年間天文部に所属して、朝から晩までそのことを覚えまくっていました。本気でやっていましたから、星とか雲とか天気とか、もう知識が身に沁み込むほど詳しくなっていましたね。

あの時の経験が、無限の記憶力と言いますか、そういうものを養成してくれたんだと思います。後に、大学受験に二度失敗して挫折を味わいましたが、浪人時代にきっかけをつかんで一心不乱に勉強するようになってからは、ものすごく成績が伸びました。低迷していたのが、医学部を受験できるレベルにまで一気に上昇したんです。天文に熱中したあの日々が、「伸びる素地」を作ってくれたのだと思います。

─何かに熱中することは、勉強にもプラスになるんですね。

学生の皆さんが今やっている勉強は、一見つまらなく思えるかもしれませんが、それは基礎能力を身につけるために必要なものです。「基礎能力がある」ということは、いつかどこかで、自分が本当に興味の持てる革新的技術に触れた時、それについて「勉強する準備ができている」ということなんです。将来、本気でやりたいことが見つかったら、それまで身につけてきた知識や技術を生かして、誰かに喜んでもらえるような何かができると良いですね。

2023年6月発行 キッズジャーナルvol.16 より

PROFILE
高原 太郎 (放射線専門医・医学博士・東海大学教授・株式会社ドゥイブス・サーチ代表取締役社長)
1961年東京都生まれ。秋⽥⼤学医学部卒業。慶應義塾⼤学病院で⼩児科医としてスタートを切るが、⽇本に導⼊されたばかりのMRIに感銘を受け、放射線科医に転向。その後MRIの診断だけでなく、患者さんの撮影や撮影法の開発にも従事。2004年、PETと同様の画像が無被ばくで得られる『ドゥイブス法(DWIBS法)』を考案。オランダ・ユトレヒト大学に招聘されて超⾼磁場7テスラMRIのオープニングスタッフとして働きながらDWIBS法の改良を加え、世界初の末梢神経描出に成功、医学雑誌『The New England Journal of Medecine(NEJM)』に掲載。2010年に帰国し、東海⼤学⼯学部医⽤⽣体⼯学科教授として着任。医学系講義を学⽣に⾏いながらMRIを活用した研究を続けている。

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